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えんしょ
艶書
山本 周五郎
「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页
「空閑地」「水利」というのである。彼はそれを出三郎にわたして云った。
「すまないが在々をまわるついでに、これだけのことを調べてくれないか、費用はおれが持つよ」
「いや、そんなものはいりません」
「部屋住みのくせに負け惜しみを云うな」半兵衛は紙入からなにがしかを取り出し、懐紙に包んで机の上に置いた、「おれもそう融通がきくわけじゃないから、半年ごとにこれだけと定めよう、それでやってくれるか」
「お役にたつかどうかわかりませんが」
「役にたつようにやるのさ」半兵衛はにやっと笑った、「――こういう人のためにもね」
そして机の上を指さした。そこに一通の手紙が置いてあった。出三郎はどきりとした、それはいつかの艶書だったのである。
「その筆記の中にはさまっていたんだ」
「お読みになったんですか」
「好奇心が強いんでね」半兵衛はからかうように笑った、「兄貴は知らないんだろう、相手はどういう人なんだ」
「冗談じゃない、それは誤解ですよ」
出三郎はへどもどしながら、その艶書のいきさつを手短かに話した。半兵衛は信じかねるようだった。艶書をつけられたのは一通だけで、その後は(機会のないためかもしれないが)まったくそんなことがないのだから、誰かの悪戯だということはほぼ確実である。