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えんしょ
艶書
山本 周五郎
「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页
七
ならそれだけはごめんこうむりたい、それなら……。
こんなことを考えながら、やがて思いきったというふうに眼をあげた。
すると半兵衛が手を振った。
「しっ、来たらしい」と彼はささやいた、「来たとすればしめたものだぞ」
出三郎は息をのんだ。理由はわからないが、なにか異常なことが起ころうとしているらしい、それは半兵衛の態度ですぐにわかった。彼は黙って手まねをし、すばやく刀の下緒を取って襷をかけ、また鉢巻をした。手まねは、「おまえもこうしろ」という意味である。出三郎はどきりとしながら、切迫した半兵衛の動作に誘われるように、これも手早く襷をかけ鉢巻をし、袴の股立をきっちりと絞った。
「おれの首をねらってるんだ」と半兵衛はささやいた、「踏み込んで来たら出さんは庭へとびだしてくれ、敵の退路を断つんだ、斬合いはおれが引き受けるから安心しろ」
七
その離れは川に面して広縁があり、左は渡り廊下、右へ鍵の手に曲がると手洗い場になっている。うしろは本床と違い棚で、こちらから襲われる心配はなかった。
半兵衛は左手の襖を指さした。そこは長四帖で、そっちから渡り廊下の手前を庭へ出ろというのらしい、出三郎はうなずいた。