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えんしょ

艶書

山本 周五郎

「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页

青空文庫

足ががくがくし、眼は霞でもかかったように、ぼうと視界が(ほんの短い瞬間ではあったが)くらくなった。

――くそっ、しっかりしろ。

彼はつまずきながら庭先へ廻った。

広縁に一人倒れ、広縁の下にもう一人、半身を沓脱ぎ石にもたれて、居眠りでもしているように倒れているのが見えた。いまのまに二人斬ったらしい、出三郎はそれを見たとたんにぐっと躯へ力が入るのを感じた。

「出さん頼むぞ」半兵衛が叫んだ、「こいつら、一人も逃がすんじゃない」

半兵衛は座敷のまん中に立っていた。

敵は左に二人、右に一人、みな刀を青眼につけたまま、斬り込むすきをねらっていた。食膳の一つが飛ばされて、椀や皿小鉢が散らかっている中に、もう一つの膳は(それは出三郎のであったが)元の場所にきちんと据えられてあった。

出三郎は唾をのんだ。唾はうまくのみこむことができた、喉に詰まった玉のような物はもう感じられないし、呼吸もしっかりしてきた。彼は刀を抜きながら叫んだ。

「助勢しましょうか」

その瞬間、まるで出三郎の声に突きのめされるかのように、左側の一人が絶叫しながら斬り込んだ。刀を上段にあげ、おがみ打ちの姿勢で、跳躍しながら踏み込んだが、半兵衛は少し身をひねっただけで、手にある刀がひらめいたと思うと、斬り込んだ相手はすっとんでゆき、襖といっしょに長四帖へ倒れた