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はなさかぬリラ

花咲かぬリラ

山本 周五郎

「新青年」公友社、1946(昭和21)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,378 字 · 36 页

青空文庫

――いまみんなでトランプをするからいらっしゃい、勉強? なに勉強は待っててくれるよ。

そう云った調子である。明らかに不愉快だという態度を示しても、例の神経の太い笑顔で無視してしまう、それがたび重なるうちに、富美子もようやく馴れていったが、それでも親しみ近づくという様子はなかった。……こういう状態が三年ばかり続いた、そして来太に召集が来たとき、まるで初めから約束していたかのように、いっぺんに二人の心が結び合ったのである。リラの若木を植えたとき富美子は泣いた、二人で小さな立札に、来太が「むらさきはしどい」と書いたあと、富美子はそれに添えて「また逢う日まで」と書きながら泣いた。もっと冷静な娘だと信じていた来太は、そのとき初めて本当の富美子の心を見たように思ったのであった。

帰還して故郷へ帰るときめたとき、彼は新しい生活の中心としてまず富美子を考えた。将来を誓ってから五年という月日がたっているけれど、戦争の厳しいさなかではあり、彼女の気質からすれば必ず待っていてくれると信じた。それもおそらく片町坂の家で待っているに違いないと、……だが富美子はいなかった。