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はないくとせ
花幾年
折口 信夫
「旅 第二十一巻第四号」1947(昭和22)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,442 字 · 5 页
その翌年それから去年と、先生を花へおさそい申すことも出来ぬ世並みに墜ちてしまった。ことしも、この汽車の様子では、到底お伴など思いもよらぬことである。どうか先生のお達者なうちに、ただ一度、ほんのただ半日でもよい、吉野の花見の御案内がしたい。
子守明神から、吉野の町へ半分降った道の谷向いから、見おろす吉野一帯の春景色――蔵王権現の堂を中にして、山の背一筋の長嶺の人居の両側に切り落した様になった勾配の青麦畠、小竹藪、遠い竜門・高取・金剛・葛城を繋ぐ霞み渡った青空、あああの凡庸な平和の山懐の花盛りに、ほんとうに無理でも、一時間でも半時間でも、先生の前に立って、花のお伴がしてあるきたい。
そう希う私すら、もう今年あたりは、とる年をしみじみ感じている。
× ×
塔の尾の御陵の山の夕花の 色立つ見ればあまりしづけき 折口春洋
山の背に つゞき輝く吉野の町。棟も甍も、花の中なる
これは硫黄島に消えた私のむすこの歌である。