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かしょく
花燭
1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,501 字 · 38 页
もう、だめだ、と思う、そのとき、電報為替が来る。あによめからである。それにきまっている。三十円。私はそのとき、五十円ほしかった。けれども、それは慾である。五十円と言えば大金である。五十円あれば、どこかの親子五人が、たっぷりひとつきにこにこして暮せるのである。どこかの女の子の盲目にちかい重い眼病をさえ完全になおせるのである。あによめも、できればもっと多くを送りたかったのであろうが、あによめ自身、そんなにお金がままになるわけでもなし、ぎりぎりの精一ぱいのところにちがいないので、また、よしんば、もっと多額を送れても、そこはたくさんの近親たちの手前もあり、さまざまの苦しい義理があるのだから、私がその三十円を不足に思うなど、とんでもないことである。私は、三十円の為替を拝むにちがいない。
私は、服装のことで思い悩む。久留米絣にセルの袴が、私の理想である。かたぎの書生の服装が、私の家の人たちを、最も安心させるだろう。そうでなければ、ごくじみな背広姿がよい。色つきのワイシャツや赤いネクタイなど、この場合、極力避けなければならぬ。私のいま持っている衣服は、あのだぶだぶのズボンとそれから、鼠いろのジャンパーだけである。