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わかきひのジンギスカン

若き日の成吉思汗

林 不忘

――市川猿之助氏のために――

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 33,827 字 · 68 页

青空文庫

そうだ、僕はたしか十七の春だったからなあ――あの森も、小川も、きっとまだあのままだろうよ。帰ってみたいなあ。

姫はかすかに涕泣きを洩らす。長い間。

成吉思汗 思い出したぞ。僕はあの時、川へ飛び込んで、流れてゆく皮袋を拾い上げた――。

合爾合姫 (顔を上げる。頬に涙が光っている)ええ、靴をお穿きになったまんまで――。

成吉思汗 そう! そうしたら、君ったら、ずぶ濡れになった僕が、川から這い上った恰好がおかしいと言って、泪の一ぱい溜まった眼で笑ったよ。いま泣いた烏が、もう笑った、ははははは。

合爾合姫 (いつしか全的に引き入れられて)烏といえば、いつか、妾の家の裏の丘へ、烏の巣を取りに行ったことを覚えてらしって?

成吉思汗 烏の巣? いや、あれは雀の巣だよ。

合爾合姫 あら嫌だ。烏ですわ。あなたったら、烏を追っ払うんだっておっしゃって、お父様の弓を持ち出して――。

成吉思汗 あ、そうだった。烏、烏――あん時あ、父親のやつにひどく怒られちゃってねえ。烏は、蒙古では神聖な鳥だからな。

合爾合姫 (すっかり追憶的に)あれから随分になりますわねえ――こんなこともありましたわ。