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えいほんどじょうりくせんのぜんや

英本土上陸戦の前夜

海野 十三

「新青年」1941(昭和16)年 2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,727 字 · 72 页

青空文庫

「あたしゃ、昨日の空爆で、両親と夫を、失ったんだ。こんどは、あたしの番だよ。自分がこれから殺されるというのに、黙っていられるかい」

「まだ子供がいるだろう。年をとった別嬪さん」

「なにをいうんだね。子供なんか、初めから一人もないよ」

「そうかい。だからイギリスは、兵隊が少くて、戦争に負けるんだ」

「なにィ……」

そのときだった。

天地もひっくりかえるような大音響が起った。入口の方からは、目もくらむような閃光が、ぱぱぱぱッと連続して光った。防空壕は、船のように揺れた。そして異様な香りのある煙が、侵入してきた。がらがらと壁が崩れる音、電灯は、今にも消えそうに点滅した。避難の市民たちは一どきに立ち上って、喚いた。

「逃げろ。爆弾が、こんどはこの防空壕をこわすぞ」

「貴様、うちの子供の上に……」

「あ、毒瓦斯。マスクだ、マスクだ」

「国歌を歌おう」

「毒瓦斯だ。そう来るだろうと思ったんだ、ナチ奴!」

だが、それは毒瓦斯ではなく、単に硝煙であった。破甲爆弾が、この防空壕の、すぐ傍に墜ちたのだった。

入口から、ばらばらと数人の者が駆けこんで来た。何か長いものを持ちこんで来たと思ったら、それは負傷者だった。