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ちゃがゆのき
茶粥の記
矢田 津世子
「改造」1941(昭和16)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,568 字 · 30 页
「ほら、見てけれせえ。足コの軽くなったこと……温泉は有難いもんだしな」
姑は清子の前をしゃんしゃん歩いてみせ、もう夕闇のきている庭へ止めるのもきかず出て行ったりした。
素朴な屋造りだった。宿屋というよりは、掃除の行き届いた農家といった感じである。庭もなまじこしらえてないのがよかった。離れになっている清子たちの部屋からは、すぐと眼前に、梅の古木を眺められた。枝の先きにだけ数えられるほどの白い輪が、思いがけない高い香りで匂ってくる。枯れ衰えた老木の気位の高い意地をみるようだった。
炬燵の上に膳が運ばれた。わざわざ丸子町へでも行って用意したのか、刺身に煮魚まで添えてあった。田芹のおひたしに、大きな塗椀の中にはぷつぷつと泡立っているとろろ汁が入っていた。土地の名物の芋なのか、肌白な粘りのつよいとろろである。山間のこの湯宿には過ぎた料理だった。箸を動かしながら清子はまたしても良人のことを思った。今は妙に肚立たしい気持である。この膳のものを一皿一皿良人の口に押し込んでやりたい苛立たしさである。黙っているその口をこじ開けても押しこんでやりたい居たたまれぬ情けない気持だった。