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おちむしゃにっき
落武者日記
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,460 字 · 23 页
「わたくし本当にはらはら致しました」
娘は男と並んで歩きながら詫び言をうち消すように云った。
「あなたさまは、治部の殿さまのお行方を御存じないはずでございましょう……それなのに、あんなに幾度も知っているとおっしゃって。もし、拷問などにかかったらどうあそばすおつもりでございました」
「……ああ云うほかに言葉がなかったのです」
祐八郎は苦く笑いながらいった。
「さむらいともある者が、しかも戦場で、自分の主君をみうしなった、ゆくえを知らぬと云うことができますか。……たとえ責め殺されても、知らぬとは云えないことです」
「まあ……わたくし、気付きませんでした」
娘は武士の生きかたの厳しさに、いまさらながら驚きと尊敬とを感じた。
「そのお立派なお覚悟が、こうして無事に出ておいでになる元だったのですね。もうこれで安心でございますね、お約束どおり、わたくしの家へおいでくださいますでしょう?」
「あなたの家へ?」
祐八郎は振返ったが、すぐ元気な声で、
「そうです、まいりましょう」
と云って笑った。
「この傷では動きがとれません、しばらく御厄介になって、百姓のお手伝いでもするとしましょう」