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あし
葦
山本 周五郎
「週刊朝日」朝日新聞社、 1947(昭和22)年6月22日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,406 字 · 25 页
「おまえもむだ足ではつまるまい、まあ帰りに一杯やってゆくがいい」
女の家からはもうなんとも云って来なかった、だが仕返しの手は別のほうに伸びた。彼は支配役に呼びつけられ、家禄屋敷召上げという達しを受けた。格別のお慈悲をもって小屋を賜わり、捨て扶持二十石を下さる、向後は身を慎むようにということだった。預かっていた三人の足軽も返し、めぼしい家財を売って、お小屋へ移った。ついて来たのは老下僕の清兵衛ひとりだった。
「これで世間に気兼ねがなくなった」彼はさばさばしたというふうに笑った。「竹の柱に萱の屋根、恋のゆくさきは昔から定っている、どうなるものでもない裃を衣て、さようしからばと非人情な固苦しい暮しをしても一生、好きあった二人が誰に遠慮もなく差向いで、朝酒まろ寝の好きな暮しも一生、どうせ死ぬまでの一生だ、生きられるかぎり人間らしく生きようじゃないか」
情事は互いが零落するほど刺戟が強くなる。それを唆るものは酒だ、二人は絶えず飲んだ。女は境遇に教えられて、快楽が適度に制限されなければならないことを知っていた、それが倦怠や弛緩から二人を守った。……もちろん生活は詰るばかりだった。