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あし

葦

山本 周五郎

「週刊朝日」朝日新聞社、 1947(昭和22)年6月22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,406 字 · 25 页

青空文庫

四

菅野家重代のものだという漢鏡だけ残して、恥かしいような物まで売った、女はとうに裸になっていた。

千神市蔵がとつぜん訪ねて来た。女と別れること、生活をたて直すこと、飾らない言葉でずばずば意見をした。

「やるだけやったではないか、しかしもうたくさんだ、どんなことにも切というものがある、もう切をつけなくてはいけない」

「冗談じゃない」又五郎は笑った。「おれたちの生活は始ったばかりだ、もちろん形式と体面だけで生きている貴公たちには、人間らしい生きかたはわからないだろう、黴臭い役部屋や、裃や大小を命の綱にしている貴公たちには……」

四

「そうだ、おれにはわからない」市蔵はしずかにこう云った。「生活というものはなにかを生みだすものだと信じている、そこもとたちの暮しは生活とはいえない、これは耽溺だ、なにものをも生まず、働かず、快楽に溺れて恥じないのは禽獣に等しい」

隣りには女がいた。市蔵の声には遠慮がない、聞えていることはたしかだ、又五郎は泣くような声ではたし合いを要求した。

――そして女は逃げた。又五郎はいま白じらとした気持でそう考える。救いようのない貧窮、安逸と懶惰に馴れた女にはそれだけでも耐えきれなかったろう、はたし合いが事実になれば、結果のいかんにかかわらず係り合はまぬかれない、逃げるのは当然だ。