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あし

葦

山本 周五郎

「週刊朝日」朝日新聞社、 1947(昭和22)年6月22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,406 字 · 25 页

青空文庫

そして屋敷へ帰ると、ひそかに貯蓄の計算をした。

勝手方元締りを命ぜられて二年、三十三歳になったときである。彼は市蔵を訪ねて「ちょっとつきあってもらいたい」と云い出した、そしてまっすぐに将監台へいった。早春のことで、樹立はまだ裸だし、草地も荒涼と枯れていた、又五郎は友とその草地の上へ来て立った。……彼はしずかにあたりを見まわし、それから市蔵の眼を見た、市蔵は頷いた。それは「なにも云うな、わかっている」という表情だった。

「そうだ、云うことはない」又五郎は頭を垂れた。

「そこもとのしてくれたことを、言葉で表現することはできない、ひとりの人間が、世間的にも自分のなかでも、あれほど落魄し堕落しながら、そこから立ち直るなどということは奇蹟に近い、しかしおれはこう思う、おれの落ちこんでいたあのような状態のなかで、『ともだちだから』というひと言を聞くことができたら、どんな人間でも立ち直るちからを与えられるだろう」

「その関係は相対的なものだ、そこもとは溺れかけ、おれは陸の上にいた、おれには浅瀬が見えていた、それだけのことだ」

又五郎は黙ってふところから袱紗包をとりだし、友の手へ渡しながら「納戸役のとき不始末を救ってもらった金だ」