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あし
葦
山本 周五郎
「週刊朝日」朝日新聞社、 1947(昭和22)年6月22日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,406 字 · 25 页
「……いざ」
市蔵は黙って相手の動作を見ていた。それから刀を抜いた。又五郎は焦点の狂った眼でこちらを見、刀を中段につけたまま「いざ」と、もういちど叫んだ。市蔵はしずかに刀を持直したが、すぐ下へおろした。
「どうした千神、なぜ刀を下げる」
「そっちにはたし合いをする気持がないからだ」
「ばかなことを云うな」
「見たままを云うんだ」千神市蔵はおちついた眼で相手を眺めた。「そこもとには勝負をする気がない、このはたし合いはそっちから挑んだものだ、そっちに勝負をする気がなくなれば、おれにはもともと用のないことだ」
「どうしてそれがわかる」又五郎の白く乾いた唇がまくれて、歯が見えた。「おれに勝負をする気がないとどこを証拠に云うんだ」
「ともだちだからだ……」
又五郎の眼に驚愕の色がはしった。市蔵は刀にぬぐいをかけ、しずかに鞘へおさめた。又五郎のうけた感動はなみたいていなものではなかったようだ。彼はなおなにか云おうとした、一歩、前へ出た。しかしそれが精いっぱいだった。彼はすぐ刀を投げだし、草の上へ坐って両手で顔を掩った。市蔵はそっちへ近寄っていった、上から友を見た。
「正直に、ひとこと云え、菅野、なにかあったのか」