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ヒューネラル・マーチ

葬送行進曲

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1931(昭和6)年4月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,494 字 · 25 页

青空文庫

「私は盗癖があったに相違御座いません。実業家棚橋讃之助の夫人が、デパートで、常習的に万引を働いたのが見付かったのですから、離縁になっても、お怨みするどころか、みんな自業自得とあきらめて、せめて手を廻して下すって、縄付になるのだけでも救って頂いた御恩を感謝して居りました」

勢子の述懐は、妙にハキハキした事務的な口調のうちにも、隠し切れない物悲しい調子がありました。讃之助の何んと返事をして宜いか、迷い抜いているような顔を、物悲しく顧みて、委細構わず続けて行きます。

「私は死んだと言う噂を撒き散らして、実はアメリカへ渡りました。それから八年間、あちらで何んなに骨を折って勉強もし、働きもし、それから顔や形や声までも変えることに骨を折ったことでしょう。この通り私の顔を変える為に、近代の整形外科の出来る限りの事をした上、薬品で声帯を腫らして、ソプラノの声をアルトに変え、身体の恰好を違った心持にする為に、右足の腱を切って、わざわざ跛にまでなりました」

何んと言う恐ろしい変装でしょう。此処まで行けば、変装と言うよりは破壊です、更生と言っても宜いでしょう、讃之助はこの変り果てた、昔の妻の姿を見て、声も無くただ舌を巻くばかりでした。