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くらのにかい
蔵の二階
豊島 与志雄
「思索」1949(昭和24)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,351 字 · 27 页
紙のつぶてが隅っこへはいると、口でくわえて室の真中に持って来、なおしばらくじゃれて、それからつぶてを喰いやぶる。また新たな紙のつぶてを投げてやると、猫は同じようにして遊ぶ。しまいには、食いやぶられた新聞紙の破片が室中にちらかる。それをカヨは丹念に掃き清める。猫はもうくたぶれて、炬燵布団の上に寝てしまう。カヨは写経の神聖な仕事にかかるのである。
或る時、夜中に、二階で鐘の音がした。いつもより強く、数も多い。しかも夜中だ。久子は驚いて、寝間着の上に丹前をひっかけるなり、駆け昇っていった。カヨが仔猫を抱いて、寝床の上に坐っている。仔猫は二三日前から病気らしく、あまり物を食べず、泡みたいなものを吐いていた。それが、急に様子がおかしくなり、手足はもう冷たくなった、とカヨは言うのである。久子にはよく分らず、桂介も起きて来た。猫はぐったりしていた。ともかくも、奇猫散をのませた。
そういう騒ぎのあとで、猫は虫下しの薬をのみ、寄生虫が果して出たかどうかは分らないが、まもなく回復した。そしてカヨの肩にも駆け上るようになった。肩に乗るのが猫は好きで、彼女が坐っていても、立っていても、さっさと駆け上り、彼女が静かにしておれば、その後ろ襟の頸もとにうずくまって、眠ることさえある。