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はくめい

薄明

太宰 治

新紀元社刊、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,073 字 · 18 页

青空文庫

「だめだろうよ。」

「そうでしょうね。」

しかし、心では一縷の望みを捨て切れなかった。

すぐ、眼の前の一軒の農家がめらめら燃えている。燃えはじめてから燃え尽きるまで、実に永い時間がかかるものだ。屋根や柱と共にその家の歴史も共に炎上しているのだ。

しらじらと夜が明けて来る。

私たちは、まちはずれの焼け残った国民学校に子供を背負って行き、その二階の教室に休ませてもらった。子供たちも、そろそろ眼をさます。眼をさますとは言っても、上の女の子の眼は、ふさがったままだ。手さぐりで教壇に這い上ったりなんかしている。自分の身の上の変化には、いっさい留意していない様子だ。

私は妻と子を教室に置いて、私たちの家がどうなっているかを見とどけに出かけた。道の両側の家がまだ燃えているので、熱いやら、けむいやら、道を歩くのがひどく苦痛であったが、さまざまに道をかえて、たいへんな廻り道をしてどうやら家の町内に近寄る事が出来た。残っていたら、どんなにうれしいだろう。いや、しかし、絶対にそんな事は無いんだ。希望を抱いてはいけない、と自分の心に言いつけても、それでも、もしかすると、と万一を願う気持が頭をもたげてどう仕様も無かった。