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はくめい

薄明

太宰 治

新紀元社刊、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,073 字 · 18 页

青空文庫

家の黒い板塀が見えた。

や、残っている。

しかし、板塀だけであった。中の屋敷は全滅している。焼跡に義妹が、顔を真黒にして立っている。

「兄さん、子供たちは?」

「無事だ。」

「どこにいるの?」

「学校だ。」

「おにぎりあるわよ。ただもう夢中で歩いて、食料をもらって来たわ。」

「ありがとう。」

「元気を出しましょうよ。あのね、ほら、土の中に埋めて置いたものね、あれは、たいてい大丈夫らしいわ。あれだけ残ったら、もう当分は、不自由しないですむわよ。」

「もっと、埋めて置けばよかったね。」

「いいわよ。あれだけあったら、これからどこへお世話になるにしたって大威張りだわ。上成績よ。私はこれから食料を持って学校へ行って来ますから、兄さんはここで休んでいらっしゃい。はい、これはおむすび。たくさん召し上れ。」

女の二十七、八は、男の四十いやそれ以上に老成している一面を持っている。なかなか、たのもしく落ちついていた。三十七になっても、さっぱりだめな義兄は、それから板塀の一部を剥いで、裏の畑の上に敷き、その上にどっかとあぐらを掻いて坐り、義妹の置いて行ったおにぎりを頬張った。まったく無能無策である。