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あざみ

薊

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页

青空文庫

「私は加川さんのことを心配しただけですよ」

「おれのなにが心配なんだ」

「薊には棘がありますからね」と岡野は云った、「私の妹も傷ついたし、ほかにも傷ついた娘がかなりいるようだから」

「おれは薊のことなど聞いているんじゃあない」

「それならそれでいいです」

銕太郎は立ちあがった。岡野を殴ろうとしたのだが、二三人に抱きとめられ、べつの座敷へ伴れてゆかれた。抱きとめたのが誰と誰だか、はっきりした記憶はない。べつの座敷へゆくと苦しくなり、それからおうたに介抱された。――彼女は二十六くらいになっていたろう、いちど嫁にいったが、良人に死なれて実家に戻っていた。銕太郎はまえから親しかったし、嫁にいったことも、出戻りになったことも知っていた。躯も小柄だし顔も小さいが、愛嬌のある明るい顔だちで、客たちみんなににんきがあった。

夜明けまえに、銕太郎は眼をさました。激しい喉の渇きで眼がさめたらしいが、起き直るとすぐに、岡野と口論をしたことが思いだされ、われ知らず苦悶の呻きをもらした。するとすぐ左側で、どうなさいました、と云う声が聞えた。

「お苦しいんですか」

彼は吃驚してそっちを見た。