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あざみ

薊

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页

青空文庫

「おまえのも癖か」

「商家に育った者や色町の女などには、そんなことがあるようにも聞きました、みだらな、いやらしいはなしですわ」とゆきをは冷やかに云った、「武家ではそんなことは許されません、そういうことはものごころつくころから、繰り返しきびしく戒められます、どんな場合にも慎みを忘れてはならない、そう教えられることはあなたも御存じではございませんか」

いや、これも妻の本音ではない、と銕太郎は思った。妻はどんなときにもはっきりしたことは云わなかった。いつも話をそらすか、巧みに要点をぼかした返辞しかしなかった。いつもそんなふうであり、それがなによりおれを苛立たせた。しまいにはおれを苛立たせ、疑惑をいだかせるために、わざとそういう態度をみせるのだ、と思うようになった。

「これは、――兄さん」と佐久馬が手に持った書物を見ながら云った、「この朝献上というのはどの部へ入れますか」

「朝献上」と銕太郎が聞き返した、「そうだな、故実の部へ入れてもらおうか」

「あっと、忘れていましたが、四十九日は明後日でしたね」

「うん」と銕太郎は口の中で云った、「――時刻は四つからだ」

「心光寺で四つから、わかりました」