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あざみ

薊

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页

青空文庫

銕太郎は庭のほうを見た。

「お願いです」とゆきをが云った、「わたくしの口から理由は申上げられません、理由は云わなくとも、あなたからそう申入れて下されば、それだけであの方にはわかる筈です」

「おまえは加川の家名と云った」彼は庭のほうを見たままで反問した、「おれがそうしなければ、おまえは死ぬほかにないし、加川の家名に傷がつくと云った、しかも理由を知らぬままでおれに決闘しろなどとは、まるで狂気の沙汰ではないか」

「ようございます」とゆきをが云った、「ではわたくしが死ぬことに致します」

銕太郎は振返って妻を見た。ゆきをは化粧をやめ、鏡の前で深くうなだれていた。みせかけでも威しでもない、妻のその姿は決意を示すものであった。いつもそうだ、ゆきをはいつも言葉でなく、行動で自分の意志を示して来た。鏡の前に坐って、深くうなだれているゆきをの姿は、死ぬことにします、という決意をはっきりあらわしていた。

「ひと言だけ訊くが」と彼は云った、「それは岡野がおまえを薊に譬え、その棘で多くの娘たちが傷ついた、ということが原因か」

「理由は云えないと申上げました」

「ひと言でいい、原因はそのことか」