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あざみ
薊
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页
と銕太郎が訊き返した、「おまえはおれのどこが気にいらないんだ」
「そのお答えはもう幾十たびも申上げました」ゆきをは鏡の中で眼をそらした、「あなたはわたくしに不満があるので、それで逆にわたくしをお責めになるのですわ」
銕太郎は眼を庭のほうへ戻した。
枯れた芒がさっと風に揺れたち、くぬぎ林で騒いでいた、百舌鳥の声がやんだ。
なま温かい夜であった。銕太郎は自分のうなされる声で、眼がさめた。深い眠りの底から、少しずつさめてき、やがて、暗くしてある行燈の光りで、立てまわした屏風の絵が、ぼんやりと眼にうつった。うなされていたなと思い、ふと気がつくと、その声はまだ聞えてい、銕太郎は頭をもたげた。けんめいになにかをこらえるような、かすれた呻き声で、絶え絶えに細くなり、そのまま消えるかと思うと、急に切迫し、よじれるように高まり、激しく暴あらしくなった。
彼は起きあがった。その声は妻の寝所から聞えて来る、うなされていたのは妻なのだ。彼は立ってゆき、襖をあけた。中廊下を隔てて妻の寝所がある、彼は「ゆきを」と呼びかけた。呻き声はすぐに止った。
「どうかしたのか」と彼はまた云った、「躯でも悪いのか」