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とうくろうのしま
藤九郎の島
久生 十蘭
「オール讀物」1952(昭和27)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,765 字 · 19 页
行く手に、いったい、なにがあるというのだろう」
と左太夫がつぶやいたが、それにこたえるものは一人もなかった。
十一月の末から、翌、享保五年の正月の末まで、船は潮に乗って流れつづけていたが、二十六日の朝方、ゆくての海の上に雲とも見える島山の影がうかびだしてきた。二ヵ月ぶりに陸地の形らしいものを見たので、みな舷へ出て、
「島だ、島だ」
とさわぎたてた。
一帯が岩山で、截ったった岩壁がいきなりに海から立ちあがり、ちょうど釣鐘を伏せたような恰好になっている。島のなかほどのところに、岩の柱がいくつか背伸びをし、南画にある唐の山にそっくりであった。ときどき噴火があるのらしく、丸い峯の頂きに赤錆がついている。草木の色はどこにも見えず、人の住んでいる気配はまったくなかった。
左太夫が歎くようにいった。
「せっかく島根に漂い着いたが、おそろしげな焼け島で、草木のアヤもみえない。それで、相談するのだが、お前らは、どう思うか、わしの意見では、粮米も残りすくなになったし、船もこんな壊れかただ。この島をはずしたら、この先、またいつ陸地にめぐりあうあてもないことだから、なにはどうでも、思いきって島にあがるほうがいいと思うのだが」