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とうそんのこせい

藤村の個性

和辻 哲郎

「新潮」1951(昭和26)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,764 字 · 14 页

青空文庫

それは藤村としては珍しくはっきりした言い方であった。私はそれを聞いて、藤村の質素な住宅に対する執着が、なかなか根深いものであることを感じたのである。

藤村は着物でも食物でも独特な凝り方をしていて、その意味で相当ぜいたくであったと思う。飯倉片町の借家をただ外から見ただけの人には、その中でこういう凝った生活が営まれていることをちょっと想像しにくかったであろう。しかしその質素な住宅が、また一つの凝り方であったことを考えないと、藤村の個性は十分に理解されない。

これは衣食住の末に現われたことであるが、しかし同じような態度は、その仕事の全面を支配していたと言ってよい。おのれの好みに忠実であること、おのれの個性を大事にすること、これが藤村の仕事の筋金になっている。『春』『家』『新生』『夜明け前』と続いた藤村の主要作品を押し出して来た力は、そこにあると思う。

ところで右にあげたような藤村の好みのなかにはっきりと現われている独自な性格は、それが無遠慮に発揮されないで、何となく人の気を兼ねるという色合いを持っていることである。

昔の日本人は、他人に見える着物の表面を質素なものにし、見えない裏に贅をつくす、というようなやり方を好んだ。