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あしかり

蘆刈

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1932(昭和7)年11月号、12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,413 字 · 78 页

青空文庫

のだろうと右の方の岸を見わたすとそのあたりはいちめんに鬱蒼とした森が生いしげりそれがずうっと神社のうしろの方までつづいているのでその森のある広い面積のぜんたいが離宮の遺趾であることが明かに指摘できるのであった。のみならずここからは淀の大川も見えていて水無瀬川の末がそれに合流しているのが分る。たちまちわたしには離宮の占めていた形勝の地位がはっきりして来た。院の御殿は南に淀川、東に水無瀬川の水をひかえ、この二つの川の交わる一角に拠って何万坪という宏荘な庭園を擁していたにちがいない。いかさまこれならば伏見から船でお下りになってそのまま釣殿の勾欄の下へ纜をおつなぎになることも出来、都との往復も自由であるから、ともすれば水無瀬殿にのみ渡らせ給ひてという『増鏡』の本文と符号している。わたしは幼年のころ、橋場、今戸、小松島、言問など、隅田川の両岸に数寄をこらした富豪の別荘が水にのぞんで建っていたことを図らずもおもいうかべた。おそれ多いたとえのようではあるが此処の御殿にいらしってときどき風流なうたげを催され、「あはれいにしへの紫式部こそはいみじくありけれ、只今さやうの料理つかまつりてむや」