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らん

蘭

山本 周五郎

「家の光」1948(昭和23)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,247 字 · 21 页

青空文庫

お受けすべきだ」

「だがおれは――」平三郎は、たたみかけるようにこうつづけた。「……おれは、いま江戸へ行きたくないんだ。松子さんとの話もまとめたいし……」

「そんな私事が辞退の理由なら、なおさらだ。よし、それだけでないにしても」と、生之助はわきへ目をやりながら、冷やかに云った。「……御用はさして長くかかりはしないだろう。ふたりのうち、ひとり勝山に残るとしたら、それはおれだよ」

「そのことばには、なにか意味があるのか」

「かくべつな意味はない。ただ何をするにも、そこもととおれとは、力をあわせなければならない。ふたりがいっしょにいて、かたく手をつないでやれば、たいていな困難は打開できる。しかしひとりではいけない。そう云いたかったのだ」

平三郎はうなずいた。生之助がかれを残したくないのは、脇屋藤六とのあいだに、きっとなにか起ると察したからだ。たしかに平三郎は、そのことを考えていた。穏健な生之助がいては果断な手段をとりにくい。江戸へ立たせた後、しかるべき機会を作って、一挙に藤六らを押えてしまおう。そう心をきめて来たのであった。けれども生之助はそれを推察してしまった。