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とらがり

虎狩

中島 敦

「光と風と夢」1942(昭和17)年7月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,260 字 · 48 页

青空文庫

五

――

反応は直ぐに現れた。口を噤んだまま正面から私を見返した彼の顔付は――その面皰のあとだらけな、例によって眼のほそい、鼻翼の張った、脣の厚い彼の顔は、私の、繊細な美を解しないことに対する憫笑や、又、それよりも、今の私の意地の悪いシニカルな態度に対する抗議や、そんなものの交りあった複雑な表情で忽ち充たされて了ったのである。その後一週間程、彼は私に口をきかなかったように憶えている。…………

五

彼と私との交際の間には、もっと重要なことが沢山あったに相違ないのだが、それでも私はこうした小さな出来事ばかり馬鹿にはっきりと憶えていて、他の事は大抵忘れて了っている。人間の記憶とは大体そういう風に出来ているものらしい。で、この他に私のよく憶えていることといえば、――そう、あの三年生の時の、冬の演習の夜のことだ。

それは、たしか十一月も末の、風の冷たい日だった。その日、三年以上の生徒は漢江南岸の永登浦の近処で発火演習を行った。斥候に出た時、小高い丘の疎林の間から下を眺めると、其処には白い砂原が遠く連なり、その中程あたりを鈍い刃物色をした冬の川がさむざむと流れている。