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とらがり

虎狩

中島 敦

「光と風と夢」1942(昭和17)年7月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,260 字 · 48 页

青空文庫

不安げな蒼ざめた顔色をして下を向いていた。側に五年生のNというのが立っていて、何かけわしい顔をしながら彼を咎めているのだ。一同があわててテントの下へもぐり込んだ時、趙が肱でもって、その上級生を突飛ばして、眼鏡を叩き落したというのらしかった。元来私達の中学校では上級生が甚だしく威張る習慣があった。途で会った時の敬礼はもとより、その他何事につけても上級生には絶対服従ということになっていた。で、私は、その時も趙が大人しくあやまるだろうと思っていた。が、意外にも――あるいは私達がそばで見ていたせいもあるかも知れないが――仲々素直にあやまらないのだ。彼は依固地に黙ったまま突立っているばかりだった。Nは暫く趙を憎さげに見下していたが、私達の方に一瞥をくれると、そのままぐるりと後を向いて立去って了った。

実をいうと、此の時ばかりでなく、趙は前々から上級生に睨まれていたのだ。第一、趙は彼等に道で逢っても、あまり敬礼をしないという。これは、趙が近眼であるにも拘らず眼鏡を掛けていないという事実に因ることが多いもののようだった。が、そうでなくても、元来年の割にませていて、彼等上級生達の思い上った行為に対しても時として憫笑を洩らしかねない彼のことだし、それにその頃から荷風の小説を耽読する位で、硬派の彼等から見て、些か軟派に過ぎ