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へび
蛇
「中央公論 第二十六年第一号」1911(明治44)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,073 字 · 23 页
迷信とか申すものかと存じますので、誠に恥じ入りまする次第でございまするが、先生がお出でになりましたら、伺って見たいと存じまして。」
主人は苦々しそうな顔をして、黙っている。
「今でもいるのか」と、己は爺いさんに問うた。
「はい。じっといたしております。」
「そうか」と云って、己は話をする間飲んでいた葉巻を棄てて立った。「一寸わたしに見せて貰いましょう。」
爺いさんは先きに立って案内する。仏間に入って見れば、二間幅の立派な仏壇に、蝋燭が何本も立てて、大きい銅の香炉に線香が焚いてある。真ん中にある白い位牌が新仏のであろう。香炉の向うを覗いて見ると、果して蛇がいる。
大きな青大将である。ひどく栄養が好いと見えて、肥満している。尾はずん切ったようなのが、とぐろを巻いている体の前の方へ五寸ばかり出ている。
己は仏壇の天井を仰いで見た。幅の広い、立派な檜の板で張ってあるのが、いつか反り返ったままに古びて、真黒になっている。
爺いさんは据わって、口の中に仏名を唱えている。主人は somnambuule のような歩き付きをして、跡から附いて来たのが、己の背後にぼんやり立っている。