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ほたる

蛍

織田 作之助

「文芸春秋」1944(昭和19)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,875 字 · 21 页

青空文庫

さまに、かえすがえす苦りきった伯父は夜の明けるのを待って、むりに辛抱せんでもええ、気に食わなんだらいつでも出戻ってこいと登勢に言い残したまま、さっさと彦根へ帰ってしまった。

伯父は何もかも見抜いていたのだろうか。その日もまた頭痛だという姑の枕元へ挨拶に上ると、お定は不機嫌な唇で登勢の江州訛をただ嗤った。小姑の椙も嗤い、登勢のうすい耳はさすがに真赧になったが、しかしそれから三日もたつともう嗤われても、にこっとえくぼを見せた。

その三日の間もお定は床をはなれようとせず、それがいかにも後家の姑めいて奉公人たちにはおかしかったが、いつまでそうしているのもさすがにおとなげないとお定も思ってか、ひとつには辛抱も切れて、起き上ろうとすると腰が抜けて起たなかった。医者に見せると中風だ。

お定は悲しむまえに、まず病が本物だったことをもっけの倖にわめき散らして、死神が舞いこんできよった。嫁が来た日から病に取り憑かれたのだというその意味は、登勢の胸にも冷たく落ち、この日からありきたりの嫁苛めは始まるのだと咄嗟に登勢は諦めたが、しかし苛められるわけはしいて判ろうとはしなかった。