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みかん

蜜柑

佐左木 俊郎

「随筆」1927(昭和2)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,618 字 · 14 页

青空文庫

「なんだけな婆さんは、枕、こんなに濡らして……」

お美代はこう言って、お婆さんの白髪頭を持ち上げ、濡れた枕を裏返しにしてやった。

「すぐわぐがら……」

お美代はすぐ囲炉裏端へ引き返した。

台所で器物を探す音がしばらくしていた。そしてお美代の持って来た茶碗の中には、その底にぽっつり味噌が入っていた。

「味噌湯の方、身体温まっていがんべから……」

お婆さんは床の上に起きかえって、茶碗を、両手で捧げるような手付きで、フウフウと吹きさましながら、続けて二杯も呑んだ。

「ああ、美味がった。甦えったようだちゃ。身体も温まって……」

「ほんでは、これでいいが婆さん。」

お美代は、持ち上げられて隙間の出来た布団を、上から押し付けてやった。

「死んでも忘れねえぞ、お美代。」

「寒ぐねえが、婆さん。」

「なあ、お美代、大崎さは行ぐなよ。なんでもいいから、楽の出来っとごさ行げ。俺死ぬ時、汝は、町場さ嫁にやるように遺言して死ぬがら……」

「俺、大崎など、死んでも行がねえ。婆さんは、まだ枕こんなに濡らして。」

お婆さんの枕は、またぐっしょりになっていた。お美代は自分の手拭いを四つに折って敷いてやった。