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ろうにんぎょう
蝋人形
小川 未明
「新小説」1908(明治41)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,886 字 · 10 页
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清吉が造って行ったただ一つの蝋人形の行衛は知れた。――その蝋人形の丈は五六寸許で、目も鼻も口もついていた。眼球は黒く墨で塗ってあって、殊に唇は赤く塗ってあった。――可愛らしい少女の似顔である。
海辺に近く住む猟師の娘で、お葛という愛嬌のある評判娘がある。お葛は小学校時分から清吉とは同級生であった。清吉がいつも他の生徒等に虐められているので、蔭になって清吉を慰めたのはお葛であった。
海は漫々として藍よりも濃く、巨浪は鞳として岸を打つ。真夏の炎天に笠も手拭も被らず、沖から吹く潮風に緑髪を乱して、胸の乳房も現わに片手に蝋人形をさも大事相に抱いて、徒跣のまま真黄な、真白な草花の咲いている、熱く日に焼けた沙原を歩いて何やら物狂わしそうに歌っているのはお葛である。――彼女の胸より湧きかえる燃えるような恋歌の息に、その熱き唇に蝋人形は幾たびとなく接吻されたのである。――然るにその蝋人形さえ、或年の夏の日に人知れず沙原の上に捨てられてそのまま形もなく溶けてしまった。