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ちょうのえ
蝶の絵
久生 十蘭
「週刊朝日別冊 記録文学特集号」1949(昭和24)年9月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,644 字 · 49 页
「なるほど、それもそうだ。時は最大の調停者か……むかしのやつは、うまいことをいうよ」
「そうなるように、願っているわけじゃありませんが、死ぬものなら、しようがないでしょう。神さまが、お召しになるのですから」
二階のほうで、なにかザワザワしているようだったが、そのうちに、取組みあいでもするような、荒くれた音になった。
「なんでしょう」
常子がけげんな顔で聞耳をたてているうちに、ドタバタ騒ぎはいよいよ爛熟して、駆けまわる足音に猿の叫び声までまじっている。
奥の間につづくドアから、慧子と寝間着を着た山川の母が出てきた。
「ごめんなさい、こんなうまい装で……常さん、あれはなんのさわぎなの」
「さあ」
「さあ、なんていっていないで、見ていらっしゃいよ……慧子さん、あなたもそんなところに立っていないで」
籠ったような銃声が、めちゃめちゃな調子で、六発まできこえた。
「二階にいるのは、山川君だけですか」
「いいえ、猿がいます」
なにもかも見透したような声で慧子がこたえた。
階段を踏みとどろかす音がしたと思うと、焦点の定まらない、熱にうかされたような眼つきで山川が客間へ入ってきた。