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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

「漁に出る振りして、カムサツカの陸さ逃げて、露助と一緒に赤化宣伝ばやってるものもいるッてな」

「…………」

「日本帝国のためか、――又、いい名義を考えたもんだ」――学生は胸のボタンを外して、階段のように一つ一つ窪みの出来ている胸を出して、あくびをしながら、ゴシゴシ掻いた。垢が乾いて、薄い雲母のように剥げてきた。

「んよ、か、会社の金持ばかり、ふ、ふんだくるくせに」

カキの貝殻のように、段々のついた、たるんだ眼蓋から、弱々しい濁った視線をストオヴの上にボンヤリ投げていた中年を過ぎた漁夫が唾をはいた。ストオヴの上に落ちると、それがクルックルッと真円にまるくなって、ジュウジュウ云いながら、豆のように跳ね上って、見る間に小さくなり、油煙粒ほどの小さいカスを残して、無くなった。皆はそれにウカツな視線を投げている。

「それ、本当かも知れないな」

然し、船頭が、ゴム底タビの赤毛布の裏を出して、ストーヴにかざしながら、「おいおい叛逆なんかしないでけれよ」と云った。

「…………」

「勝手だべよ。糞」吃りが唇を蛸のように突き出した。

ゴムの焼けかかっているイヤな臭いがした。

「おい、親爺、ゴム!」