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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

帆村が小首をかしげたとき、二人は警笛の響きを頭の上はるかのところに聞いてハッと硬直した。

「あれは――」と、崖の上を仰いだ二人の眼に、思いがけない実に愕くべきものが映った。

さっき二人が乗り捨ててきた自動三輪車のそばに、一人の怪人が立っていて、こっちをジッと見下ろしているのであった。彼は丈の長い真黒な吊鐘マントでもって、肩から下をスポリと包んでいた。そしてその上には彼の首があったが、象の鼻のような蛇管と、大きな二つの目玉がついた防毒マスクを被っていた。だから本当の顔はハッキリ分らなかった。ただ丸い硝子の目玉越しにギラギラよく動く眼があったばかりであった。

「呀ッ、あれは誰だす」

「うむ、今はじめて見たんだが、あれこそ蠅男に違いない」

「ええッ、蠅男! あれがそうだすか」

「残念ながら一杯うまく嵌められた。自動車があの山の端を曲ったところで、蠅男はヒラリと飛び下りて叢に身をひそめたんだ。あとは下り坂の道だ。自動車はゴロゴロとひとりで下っていったのだ。ああそこへ考えがつかなかった。とにかく一本参った。しかし蠅男の姿をこんなにアリアリと見たのは、近頃で一番の大手柄だ」