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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

拡げて調べてみると、果然活字の上に、赤鉛筆で方々に丸がつけてある。これを拾って綴ってゆくと、文章になっていることが分った。

「ウム、やはり蠅男の仕業だな」

赤い丸のついた字を拾ってゆくと、次のような文句になった。

「――この事件カラただちに手をひケ、今日まデワ大メに見テやる、その証コに、イと子を安全に返シテやる、手を引カネバ、キサマもいと子も皆、いのちがナイものと覚悟セヨ、蠅男より、ほムラそう六へ――

果然、蠅男からの脅迫状だった。

帆村探偵に、この事件から手を引かせようという蠅男の魂胆だった。

帆村は、この新聞紙に赤丸印の脅迫状を読んでいるうちに、恐怖を感ずるどころかムラムラと癪にさわって来た。

「かよわい糸子さんを威かしの種に使おうなんて、卑怯千万な奴だ」

それにしても、糸子はどうしてこの部屋へ搬ばれて来たのだろう。またその脅迫状はどうして帳場に届けられたのだろう。それが分れば、憎むべき蠅男の消息がかなりハッキリするに違いない。

帆村は電話を帳場にかけた。

「誰か僕の居ない留守に、この部屋に入ったろうか」

帳場では突然の帆村の質問の意味を解しかねていたが、やっとその意味を了解して返事をした。