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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

「ハアけさ、お客さんが外出なさいまして、その後でボーイが室内をお片づけしただけでっせ。その外に、誰も一度も入れしまへん」

「ふうむ。ボーイ君の入ったのは何時かネ」

「そうだすな。ちょっとお待ち――」と暫く送話口をおさえた後で、「けさの午前十一時ごろだす。それに間違いおまへん」

「嘘をついてはいけない。その後にも、この部屋を開けたにちがいない。さもなければ鍵を誰かに貸したろう」

「いいえ滅相もない。鍵は一つしか出ていまへん。そしてボーイに使わせるんやっても、時間は厳格にやっとりまんが、ことに昼からこっちずっと、お部屋の鍵はこの帳場で番をしていましたさかい、部屋を開けるなどということはあらしまへん」

帳場の返事はすこぶる頑固なものであった。帆村はそれを聞いていて、これは決して帳場が知ったことではなく、そっちへは万事秘密で行われたものに違いないと悟った。

全く不思議なことだったが、何者かが帳場と同じような鍵を使って扉を開け、そしてそこに糸子を入れて逃げたのだった。

これももちろん蠅男の仕業にちがいない。一方において脅迫状を送り、そして他方において糸子を池谷別邸からこのベッドの上に送りこんだのに違いない。