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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
「ウム、静かな脈だ。心臓には異常がない。だがどう見ても、何か睡眠剤のようなものを嚥まされているらしい」
なにゆえの睡眠剤だろう。
もちろんそれは、糸子をここへ搬びこむためにそうするのが便利だったというわけだろう。すると糸子たちが、このホテルに入ってくるのを誰か見た者がありそうなものだ。それを帳場へ行って聞き正したいと思った。
彼はすぐにも帳場の方へ下りてゆきたかったけれど、それは甚だ気懸りであった。この部屋には、糸子がひとりで睡っているのである。もし彼が室外に出て鍵をかけていったとしても、さっき煙のようにこの部屋に闖入した蠅男の一味は、えたりかしこしと帆村の留守中に再びこの部屋に押し入り、糸子に危害を加えるかもしれないのだ。これは迂濶に部屋を出られないぞと思った。
そうした心遣いが帆村の緻密な注意力を証拠だてるものであった。けれどその一面に彼がいつもの場合とはちがい、なぜかしら気の弱いところが見えるのも不思議なことであった。帆村は電話器をとりあげて、外線につないで貰った。そして彼は宝塚警察分署を呼びだした。彼はそこで事情を話し、すぐ二名の警官を特派してくれるように頼んで、電話を切った。