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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

勇敢なる巡査部長は、先頭に立って、腐りかかった鎧戸を押して、薄暗い内部にとび下りた。一行は、最初の警官を窓のところに張り番に残して、ソロソロと前進を開始した。

帆村も丹前の端を高々と端折って、腕まくりをし、一行の後からついていった。

たいへん曲りくねって階段や廊下がつづいていた。外から見るような簡単な構造ではない。大小いくつかの部屋があるが、悉く洋間になっていて、日本間らしいものは見当らなかった。

家の中に入ると、不思議とあの変な臭気は薄れた。そしてそれに代って、ひどく鼻をつくのが消毒剤のクレゾール石鹸液の芳香だった。

「ここ病院の古手と違うか」

「あほぬかせ。ここの大将が、なんでも洋行を永くしていた医者や云う話や」

「ああそうかそうか。それで鴨下ドクトルちゅうのやな。こんなところに診察室を作っておいて、誰を診るのやろ」

「コラ、ちと静かにせんか」

巡査部長の一喝で、若い警官たちはグッと唇を噤んだ。

いくら跫音を忍ばせても、ギシギシ鳴る大階段を、下に下りてゆくと、思いがけなく大きい広間に出た。スイッチをパチンと押して、電灯をつけてみる。

「ああ――」

これは主人の鴨下ドクトルの自慢の飾りでもあろうか、一世紀ほど前の中欧ドイツの名画によく見るような地味な、それでいてどことなく官能的な部屋飾りだ。