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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

「いま向いの動物園の中で妙な洋服男がウロウロしとるのを見つけました。こっちへ出てくる風でおます。それとなく警戒しとります」

動物園というのは、公園南口停留場のすぐ向いにあった。この寒い夜中に、動物園のなかをうろついているというのはいかさま変な話だった。

そのとき村松検事が、例の病人のような骨ばった顔をこっちへ近づけてきた。

「オイ帆村君。なにか面白い話でも聞かさんか。儂は至極退屈しているんだ」

検事は浮かぬ顔をしていた。折角の捕物がうまくいかないので、腐っているらしい。

「面白い話は、こっちから伺いたいくらいですよ。蠅男がアメリカのギャングのように機関銃を小脇にかかえてダダダッとやったときの光景はいかがでした」

「ウン、なかなか勇壮なものだったそうだ。味方はたちまち蜘蛛の子を散らすように四散して、電柱のかげや共同便所のうしろを利用してしまったというわけさ」

「検事さんのお口にかかっては、こっちは皆シャッポや」と署長は苦笑いをした。「それよりも帆村はん、豪い妙な話がおますのや。それは蠅男の機関銃のことだすがナ、その機関銃の銃身がこっちには皆目見えへなんだちゅうのだす」