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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
「いや、行きちがいの話だんね」
「ははァ、行きちがいの話ですか。じゃあそこまで行ってどうも御苦労さまというわけですか」
「まあそんなものや。つまり村松検事さんのところへ、塩田先生からの速達が来たという話やねん。今夜十時までに、堂島さんの法曹クラブに訪ねてきてくれというハガキや」
「村松さんはもう行ったじゃないですか」
「そうや。そやさかい、行きちがいや云うとるねん」
「しかし速達はギリギリに着いたですね。もうかれこれ九時ですよ」
二人の会話は、そこでまたもや杜切れてしまった。帆村は次第につのり来る寒さに、外套の襟を深々とたて、あとは黙々として更けてゆく夜の音に、ただジッと耳を澄ましたのだった。
おお蠅男は、どこに潜んでいる?
こうして頤紐をかけた大勢の警官隊でもって、大阪きっての歓楽の巷である新世界と大阪一の天王寺公園とを冬の陣のようにとりかこんでいるが、蠅男とお竜とはもういつの間にか、この囲みをぬけてどこかへ逃げてしまったのではないか。
全く神出鬼没の怪漢蠅男のことだから、容易に捕る筈がない。しかもこの界隈は、人間の多いこと、抜け裏の多いことで大阪一の隠れ場所だ。