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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
かねて糸子は蠅男について誰も外の者が知らぬ秘密を握っていると思われたが、いよいよそれを帆村に云う気になったらしい。しかもそれを帆村だけに与えるというのではなく、今夜来なければ、警察の方に知らせてしまうぞという甚だ辛い好意の示し方をした。まだまだ彼女の帆村に対する反感が残っているらしいことが窺われた。
でも今夜のうちといえば、帆村は果して糸子のもとへ駆けつけられるだろうか。それは出来ない相談だった。帆村はいま、暴行沙汰のため、警察の豚箱のなかに叩きこまれているはずだった。宝塚ホテルの帳場子は、帆村がそんな目に会っているとは露知るまい。あたら帆村も、ここへ来て慎みを忘れたがために、折角糸子が提供しようという蠅男の秘密を聞く機会を失ってしまって、遂にこれまでの苦労を水の泡沫と化してしまうのだろうか。
怪! 怪! 蠅男の正体!
玉屋本邸は、今宵糸子を迎えて、近頃にない賑やかさを呈していたが、そのうちに午後九時となり十時となり、親類知己の娘さんたちも一人帰り二人帰りして、やがて十一時の時計を聞いたころには、五人の召使いの外には糸子只一人という小人数になった。