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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

父は蠅男のためにストーブの中で焼き殺されたに違いありませんわ」

「なるほど、あの焼屍体の半焼けの右足の拇指が半分ないのは、お父さまの特徴と一致するというわけですね」

カオルはそれに応える代りに、はふり落ちる泪を手で抑えつつ大きく頷いた。無慚な最期を遂げた亡き父に対する悲しみが、今や新たに泪を誘ったのに相違なかった。

「お嬢さん。ドクトルはどうして蠅男に殺されるようなわけがあったのでしょうネ」

と、帆村が率直に質ねると、カオルは泪に泣きぬれた白い面をあげて、

「さあそれが、あたくしには一向心当りがございませんのです」

「うむ、貴方にもやはり分りませんか」

帆村は、また一つ希望を失った。

だが根本によこたわる彼の信念は微動もしなかった。蠅男の兇刃に斃れた鴨下ドクトル、それから富豪玉屋総一郎、最近に元検事正塩田律之進――この三人は、何か蠅男から共通の殺害理由をもちあわしていたに違いないということだ。その殺害理由を探し出すことが、この大事件を解決する一番近道であらねばならぬ。一体それは何だろう。

この最初の被害者である鴨下ドクトル邸内にも、必ずやその殺害理由を説明するに足る秘密材料の一つや二つが隠されているに相違ない。