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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

鴨下ドクトルは、始めてホッと息をついた。こうして大実験のための手術だけは終ったのである。彼はなぜこんな残虐きわまる畸形人間を作ったのであろうか。

鴨下ドクトルは、一つの大きな学説を持っていた。それをこの縮小人間によって確かめようと考えたのだ。その学説によると、もし人間が生きるのに直接必要でない肉体部分――つまり心臓や肺臓は是非必要だが、手足や二つ以上ある内臓は、これを切除するか又は一つに減らしてしまう。そうすると人間の脳力は、手足などのことに煩わされることがなくなり、結局今まで無駄につかっていた脳力が余ってくるから、従ってその人間は普通の人間よりも何倍も悧巧になる。――だろうというのが、縮小人間に対する鴨下ドクトルの学説だった。この大胆なる学説が、果して正しいかどうか、鴨下ドクトルはそれを人類文化に大なる貢献をする研究だと思い、遂にその実験台となる人間を親しい塩田検事正に無心したのである。そこで死刑囚糊本が選ばれ、大手術の結果、ここに通称「蠅男」の誕生となったものである。鴨下ドクトルの日記によれば、この縮小人間は体力の回復とともに、予期したとおり普通の人間とは比べものにならぬほどの悧巧さを示した。