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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

検事村松と傷つける青年探偵帆村壮六とが、事件の話に華を咲かせているその最中に、慌ただしく受付の看護婦がとびこんできた。

「モシ、地方裁判所の村松さんと仰有るのは貴方さまですか」

「ああ、そうですよ。何ですか」

「いま住吉警察署からお電話でございます」

検事はそのまま席を立って、室外へ出ていった。

それから五分ほど経って、村松検事は帰ってきた。彼は帆村の顔を見ると、いきなり今の電話の話をした。

「いまネ、鴨下ドクトルの邸に、若い男女が訪ねてきたそうだ。ドクトルの身内のものだといっているが怪しい節があるので、保護を加えてあるといっている。ちょっと行って見てくるからネ。いずれ又来るよ」

そういい置いて、扉の向うに消えてゆく検事の後姿を、帆村は羨ましそうに見送っていた。

蠅男

時間は、それより一時間ほど前の九時ごろのことだった。

同じ住吉区の天下茶屋三丁目に、ちかごろ近所の人の眼を奪っている分離派風の明るい洋館があった。

太い御影石の門柱には、「玉屋」とただ二字だけ彫ったブロンズの標札が埋めこんであったが、これぞいまラジオ受信機の製造で巨万の富を作ったといわれる玉屋総一郎の住宅だった。