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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

正木署長は席を立って、検事を玄関に迎えに出た。一伍一什を報告したあとで、

「――どうも怪しい女ですなア。あの変り者の鴨下ドクトルに娘があるというのも、ちと妙な話ですし、それに娘のところへ二、三日うちに出てこい云うて、二十九日附で手紙を出しておきながら、翌三十日から旅行するちゅうて出かけ、そして今日になってもドクトルは帰ってきよらしまへん。ドクトルが娘に手紙出したちゅうのは、ありゃ嘘ですな」

と、自信あり気な口調で、検事に説明をした。検事はそうかそうかと肯いた。

二階に設けた仮調室に現われた検事は、カオルと名のる女をさしまねき、

「貴女は鴨下ドクトルの娘さんだそうだが、たびたびこの家へ来るのかネ」

と尋ねた。

カオルは、新しく現われた調べ手に、やや顔を硬ばらせながら、

「いいえ、物心ついて、今夜が初めてなんですのよ」

「ふうむ。それは又どういうわけです」

「父はあたくしの幼いときに、東京へ預けたのです。はじめは音信も不通でしたが、この二、三年来、手紙を呉れるようになり、そしてこんどはいよいよ会いたいから大阪へ来るようにと申してまいりました。父はどうしたのでしょう。