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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

風呂敷を解くと、宿屋に残してあった洋服がそっくり入っていた。

「呆れたものだ。早く着換えとけばいいのに――」

「そうはゆきませんよ。事件の方が大切ですからネ。洋服なんか、必ず着換える時機が来るものですよ」

そういいながら、帆村は借りていた警官のオーバーを脱ぎ、病院の白い病衣を脱ぎすてた。

警官は帆村のために、襯衣やズボンをとってやりながら、検事には遠慮がちに、帆村に話しかけた。

「――もし帆村はん。ちょっと勉強になりますさかい、教えていただけませんか」

「ええ、何のことです」

「そら、さっきの二人に帆村はんが云やはりましたやろ、東京は暖いとか、雨が降っていたやろとか、燕で来たやろ、娘はんの家は板橋区の何処やろとかナ。二人とも、顔が青なってしもうて、えろう吃驚しとりましたナ、痛快でやしたなア。あの透視術を教えとくんなはれ、勉強になりますさかい」

藍甕転覆事件

帆村はそれを聞くと面映ゆげにニッと笑い、

「あああれですか。あれは透視術でもなんでもないのですよ。聞くだけ、貴下が腹を立てるようなものだけれど――」

「ナニ帆村荘六の透視術?」と早耳の検事はその言葉を聞き咎めて、「――おい君、善良な警官を悪くしちゃ困るよ」