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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
天井裏の怪音?
「あれはなんだネ、池谷与之助てえのは」
と、検事が署長にたずねた。
「その池谷与之助ですがな。さっき怪しい奴が居るいうてお知らせしましたのんは。夜になって、この邸にやってきよりましたが、主人の室へズカズカ入ったり、令嬢糸子さんを隅へ引張って耳のところで囁いたり、そうかと思うと、会社の傭人を集めてコソコソと話をしているちゅう挙動不審の男だすがな」
「フーム、何者だネ、彼は」
「主治医や云うてます。なんでも宝塚に医院を開いとる新療法の医者やいうことだす。さっき邸を出てゆっきよったが、どうも好かん面や」
と、署長は、白面無髯に、金縁眼鏡をかけているというだけの、至って特徴のない好男子の池谷与之助の顔に心の中で唾をはいていた。
「なんだ、怪しいというのは、たったそれだけのことかネ」
「いいえいな、まだまだ怪しいことがおますわ。さっきもナ、――」
と云いかけた途端であった。
突然、二階へ通ずる奥の階段をドンドンドンと荒々しく踏みならして駈け下りてくる者があった。それに続いてガラガラガラッとなにか物の壊れる音!
男女いずれとも分らぬ魂消るような悲鳴が、その後に鋭く起った。