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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

他殺か、自殺か?

すると、正木署長が叫んだ。

「おお血や、血や」

「ナニ血だって? 縊死に出血は変だネ」

と村松検事は屍体を見上げた。そのとき彼は愕きの声をあげた。

「うむ、頭だ頭だ。後頭部に穴が明いていて、そこから出血しているようだ」

「なんですって」

人々は検事の指す方を見た。なるほど後頭部に傷口が見える。

「オイ誰か踏台を持ってこい」検事が叫んだ。

帆村探偵に抱かれていた糸子は、間もなく気がついた。そのとき彼女は低い声でこんなことを云った。

「――貴郎、なんで書斎へ入ってやったン、ええ?」

「ええッ、書斎へ――何時、誰が――」

意外な問に帆村がそれを聞きかえすと、糸子は呀っと声をあげて帆村の顔を見た。そして非常に愕きの色を現わして、帆村の身体をつきのけた。

「――私、何も云えしまへん」

そういったなり糸子は沈黙してしまった。いくら帆村が尋ねても、彼女は応えようとしなかった。そこへ奥女中のお松が駈けつけてきて、帆村にかわって糸子を劬った。

警官たちに遅れていた帆村は、そこで始めて惨劇の演ぜられた室内に入ることができた。

「ほう、これはどうもひどい。――」

彼とてもこの場の慄然たる光景に、思わず声をあげた。