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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

帆村探偵の出した答によると、蠅男は密室のなかに煙のように出入する通力をもち、そして背丈はおよそ八尺もある非常に力の強い人物である。だがそんな化物みたいな人間が実際世の中に住んでいるとは誰が信じようか。しかも帆村は出鱈目をいっているのではない。彼は犯跡から精しく正しく調べあげて間違いのない答を出したのだ。ああ稀代の奇怪! 蠅男とは、昔の絵草紙に出てくる大入道か?

蠅男の正体をどうしても突き止めねば、再び東京へかえらないと心に誓った青年探偵帆村荘六は、身はいま歓楽境宝塚新温泉地にあることさえ全く忘れ、全身の神経を両眼にあつめて疎林の木立の間から、池谷控家に近づきゆく糸子の後姿をジッと見まもっているのだった。さきほどの話合いで、糸子と帆村との間にはなにか、或る種の了解ができているらしいことは、糸子の健気な足どりによってもそれと知られる。

池谷医師から(きょうの午前中に、誰にも知らさず訪ねてこい、さもないと取りかえしのつかないことが起る)と電話された糸子だったが、その用事とは一体なにごとであろうか。

また池谷と連れだって、この控家のなかに入った若い丸顔の女性については、糸子は心あたりがないといったが、果して彼女は何者であろうか。